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伊娃的誘惑

2016年02月24日

趣味の反映


二日酔いとむくみでしかめっつらした健二に見送られて渋谷を後にした寺山は一旦自宅に戻り美智代に返す紙袋をリュックに入れ会社に向かった。途中物流鑽石能量水倉庫のある駅で山岸と合流した。山岸は最近始まったパソコン組立のキッティング作業や新システムに関して不満と不信を漏らした。「なんぼ合理化のため言うてもあんな年寄りにパソコンいじらすのは可哀想や。学生みたいのにあれせえこれせえ言われてうろうろしてるわ。いっそのこと辞めてくれ言われた方がましやで」山岸の言っているのは最近までトラックヤードを仕切っていて定年で嘱託になった元現場課長の斉藤のことだ。寺山ももちろんよく知っている。一月前まで一緒に働いていたし、ガムテープの張り方から伝票の接続、フォークの取り回しまで叩き込んでくれたのも彼だった。「仕事があるだけましだよ。おまえが思うほど彼は気にしちゃいない。辞めたきゃ辞めるさ」と寺山は言った
 新システムが稼働したのは半年ほど前だった。既にPOSは導入されていたが、自動倉庫を一新し、仕訳をほとんど自動化した。作業を自動化するとミスは致命的な効率ダウンに直結する。手作業でなんとかしようとしても既にそのシステムがない。斉藤はそのミスを連発し伝鑽石能量水票を手に走り回っていた。移動は突然だった。笑顔を凍らせて「はい、はい」とうなづく彼に、本社の若い総務課長はキッティングルームに人が足りないからそっちに回ってくれないかと告げた。三十年以上現場にいる人間にハードディスクのコピーをやってくれと言うのだから辞めてくれと言っているのと同じである。しかし人には出来ない事情がある。斉藤はキッティングルームに移った。
 三月に入ると東京の冬も春の兆しを見せ始めるがこの町にはそれがないされた庭など隅から隅までコンクリートに覆われたこの町にあるはずもなく緑化のために植えられた道路脇の緑樹もいたずらに白い町の広がりを映しているだけである。所々に巨大な橋がかかり海までも人の目から隠し車の中からざっと見るにとどまる。海猫が飛ぶから海があるのが判るくらいで、地上にいる限りどこもかしこも人工物だ。もっとも人が住み憩うための町ではないのであるから当たり前といえば当たり前である。好きこのんでここにとどまる人間は風に吹かれる人間か風に耐える人間か。きっと海猫の仲間で灰色の目を持つ──女の目も青みがかった灰色だった。振り仰いで寺山を見たときにも、キーを差し込んだドアの前で彼女が少し振り向いた時にも
それを見た。ワインレッドのクッションフロア鑽石能量水に鈍い光が広がり、振り返った彼女の目はその光をこの町に緩やかに吹き荒れる風に溶け込ますかのようだった。
 倉庫の2階に上がるエレベータの前で掲示板のチラシを見ながら寺山はその目を思い出した。彼女は「もっと酷くして」と言い、「ごめんなさい」と言い
「許して」と言う。「甘えるな」と髪を掴んだとき青みがかった灰色のその目の奥に懇願のような喜びが見えた。  

Posted by 伊娃的誘惑 at 10:41Comments(0)

2016年01月13日

希望の物語を


「一応、これは物語の始まりなのだから、設定として、僕はお金を盗んだと信じこんでいる。だが、このように新たに読み直すとき、前のエンディングの続きの記憶により、まあちゃんが作者の言われるがままに“偶然”お金を拾ってしまった事を、僕は知っているはずなのに、あえて愚かなふるまいをしなければならない。なぜなら、一応この話は始まったばかりだから。君に会って随分な時間が経っているのに。」
こん太は一歩ちかづいていいました。
「きみはそのお金を拾ってはならない。捨てて。それを持ったら警察に届けなくてはならぬ。それをしたら世界の破滅だ。捨てなさい。さあ。」
こん太は言いましたが、まあちゃんはお金から手をはなせません。
「どうしたの?」
「だめ…できない…これを止めたら、なにかが、こわれる…大変な事になる気が…する。」
「大変な事?すでに大変だ!」
こん太はまあちゃんの手からお金をはらいおとし、ふみつけました。がすがすとあしおとがむなしくあおぞらにひびきます。こん太はどういうつもりなのでしょう。ものがたりははじまりがかんじん。はじまりがこわれたら、つづきもおわりもせいりつしません。
「この、札、束、が、絶、対、的、死、を、招、くん、だ、」
おかねがくろくよごれ、つかいものにならなくなりました。まあちゃんはたずねました。
「これからどうするの?」
「作者の力はこれで失われた僕たちで物語を作るんだ。」
おろかものが。
「どんな物語?」
「未知と言う名の。」

その日の空は、その大きさを示すが如く青く、その大きさを隠すように雲を纏っていた。広がる緑の大草原と丁度いい色合いだ。その草原にマアとコンタが、並んで仰向けになっていた。
マアは言った。
「綺麗な空だね。」
コンタも答えた。
「綺麗な、空だね…。」
二人は起き上がった。西を向けば、あの大きな森が見え、東を向けば、山がある。
「あの山の向こうには、なにがあるんだろう。」
「分からないが…かつてない幸福の園がある、という伝説を聞いた。だが、その園にたどり着こうと、多くの若者が命を失った。」
「でも…行きたい。」  

Posted by 伊娃的誘惑 at 12:43Comments(0)

2016年01月08日

で認知症が進

「そうですねえ……おとなしい人ですよ。奥さんが積極的で勝ち気な方だから、そう見えてしまうのかもしれませんけど」
「息子さんがいますよね、中学生の」
「直巳君鑽石能量水ですよね。ええ、知っています」
「どんなお子さんですか」
「まあ、ふつうの男の子ですよ。あまり活発ってことはないみたいですね。小学生の時から知ってますけど、外で遊んでいるところは見たことがないんじゃないかしら。このあたりの子供は、うちの前でボール遊びなんかをして、一度はうちの庭にボールを入れたりするんですけど、直巳君はそんなことはなかったと思います」
 どうやら彼女は前原直巳について、最近の情報は持っていないようだ。
 あまり参考になる話は聞けそうにないので、そろそろきりあげようかなと松宮が考えていると、「あそこのお宅も大変ですよね」と彼女のほうからいった。
「何がですか」
「だってほら、お婆さんがあんなふうでしょ」
「ああ……」
「以前も奥さんがこぼしておられたことがあるん鑽石能量水ですよ。本人のためにも、どこか施設に入れたほうがいいんだけど、そういうところはなかなか空きがないし、あったとしても御主人や御主人の親戚筋がいい顔をしないだろうって。ほんとにねえ、急にですもんねえ。痴呆、じゃなくて認知症でしたっけ。以前はあそこのお婆さんも、しっかりした人だったんですけどねえ。息子さんたちと一緒に暮らすようになってからなんですよ。あんなふうになったのは」
 周囲の環境が変わったことがきっかけんだケースについては、松宮も聞いたことがあった。変化に気持ちが対応できなくなるのかもしれない。
「でもねえ」ここで主婦はかすかに意味ありげな笑みを浮かべた。「そりゃあ奥さんはお困りだと思うんですけど、認知症のお年寄りを抱えているお宅はたくさんあるわけでしょう? そういうほかのお宅に比べたら、前原さんのところはまだましだと思うんですよ」
「といいますと?」
「だって、毎晩のように御主人の妹さんが来てくださるんですもの。お婆さんのお世話をするためだけにですよ。妹さんこそ大変だろうなあって思います」
「前原さんの妹さんが? 近くにおられるんですか」
「ええ、駅前で洋品店をや鑽石能量水っておられます。店の名は、『タジマ』とかいったと思いますけど」
「金曜の夜はどうでしたか」今まで黙っていた加賀が、急に横から尋ねた。「その夜もやはり妹さんは来ておられたようでしたか」
「金曜ですか。さあ、それは……」主婦は考え込んでから首を振った。「そこまではわかりません」
「そうですか」加賀は笑顔で頷いた。  

Posted by 伊娃的誘惑 at 12:08Comments(0)

2015年12月17日

ギリシャ神話

「迷路のまち」と呼ばれる町並がある。
これは、香川県の瀬戸内海に浮かぶ小豆島の土庄町。
南北朝時代王賜豪醫生に築かれたもので、
守る南朝側の佐々木信胤が星ケ城に籠り、攻める北朝側の細川氏の軍勢を抑えるために
城の回りの町並みの構造を迷路のように複雑に作り上げたもの。

世界的に迷路と呼ばれるものは多いが、
こういった迷路の目的は、たいてい魔除けや悪魔払いの儀式として使われていたようだ。
単に娯楽のために作鑽石能量水 問題られたものもかなりある。

ミノタウロスはミノス王の子だが、半人半馬。
すなわち、上半身が人間、下半身が馬というもの。
そんな姿のため、人に会わせないように迷宮に閉じ込めておいた。
そして、王ミノスは、残忍にも、
幼い女の子7人をミノタウロスのエサとして迷宮の中に放り込んだ。
それを伝え聞いたアテネの若者・テセウスは、
正義感に燃え、勇敢にもその子たちを助けようと迷宮の中に入っていく。
手には恋人アドリアネからもらった赤い糸を持ち、その糸をほどきながら奥まで侵入し、
そこでミノタウロスを打ち破り、
今度は赤い糸を巻き戻し、迷うことなく戻ってくるという話。

ギリシャ神話は、古代ギリシャに残っている話だが、
「なぜ?」と首をcrystal trophy
傾げたくなるところが結構ある。
神話そのものが、ツッコミどころ満載といったところ。
いわば、ギリシャ神話自体が「迷路」と言えそうだ。

「迷路」は、どのように進んでいいのか、わからないもの。
それが、ちょっと離れたところから見ると、すんなり解けたりするもの。
だけども、方向オンチの人にとっては、
何でもないところも「迷路」。  

Posted by 伊娃的誘惑 at 11:15Comments(0)

2015年11月26日

クが出来ない


爽やかな汗と言いたいが、実際は人を殺そうと汲々(きゅうきゅう)としてかいた汗なのでどうかというところだ。
「しかし、体力だけで……は、この試験を乗り切ることは出来ないんだな」
アリーシュは膝に手をつきながら言った。
「もし体力だけが問題なら、中年や壮年の人は一発で不合格になるのだ。しかし実際は違う」
「アタマも必要ですからね。それと運。…しかし、体力って言うのなら」
エイリスがじーっとアリーシュの胸を見た。
「そのデカい胸は走るのに邪魔そうですね」
「失礼なんだな! セクハラだ!」
「全くよ。デリカシーのない男ね」
「本当のことを言ったまでです護肝食物
二人に文句を言われても、エイリスはけろっとしている。慣れたものだ。

だがふと、懐からフォークを出して溜息をついた。
「しかし、これは殺傷力がなくて困る」
「え?」
「何の話?」
「せっかく当たってもこれだけで試験者が死ぬ事は滅多にないから」
続いて、ミシェルの日本刀をチラリと見た。
「自分は本当はレイピアを使いたいんですけどね。……レイピアっ脫髮治療て何か分かります? 刺突用の剣ですよ」
「それはご丁寧にどうもなんだな。でも、それなら使えばいいのに」
「フォークみたいにストッんですよ。そもそも、自分は体力がありませんので。
本当は追いかけるより、待ち伏せたり、物を投げて攻撃した方がいいんです」
「じゃあさっき、それを投げれば良かったですのに」
ミシェルはツンとして言う。
「何故やりませんでしたの?」
「階段を上ってる最中ですよ。うまく彼に命中すればいいですが、そうでなかった場合跳ね返って、こっちにダメージがきそうじゃないですか」
「あら、そう王賜豪主席
「……しかし、エイリスもアリーシュも怖いのだ」  

Posted by 伊娃的誘惑 at 16:52Comments(0)

2015年11月24日

には時間があ

そうこうしているうち、彼より先に追っ手の方がバテたようだった。やがて荒い息をはき、ピタリと立ち止まった。しかし投げるのはやめず、やがて一本の鋭い刃が、逃げる彼の服を切り裂いて傷をつけた。
「いッ――」
彼は一瞬顔をしかめた。だが足は止めずに鑽石能量水傷を抑え、階段を下り、下の階に行く。
「はぁ、はぁ、はぁ――っ……」
 あいたドアからまっすぐ中に飛び込んだ。荒い息をなんとか殺し、追っ手がここまで追いかけてこないことを確認し、彼はここでようやっと休息を得た。
「あぁ、どうして」
ようやく、一息ついた彼。しかし落ち着いたところで、頭に浮かぶのは疑問符だけだった。
 だがそれも尤(もっとも)だ。こんな廃校の中、包丁を持った人に追いかけられるなんて。まずあり得る状況ではない。
 あの、包丁を持った子は何者だ。そして彼はどうして、こんな場所に足を踏み入れたのか。

 そのきっかけは些細なことだった。だがその『些細なきっかけ』に到達するまでの道のりは、彼にとって悲哀の連続だった。
 不純異性交遊もしない。悪い友達もいない。酒も煙草も万引鑽石能量水きもしない。学校での成績はいつも平均点より上をキープ。特に秀でていわけではないが、宿題はほぼかかさずやるし、真面目でズル休みもまずしない。
 彼は良くも悪くも『普通』な学生だった。が、先日、とんでもなく酷いことがおきた。
 それは人によっては「なんだ、そんな事」と言ったかもしれない。だが彼にとっては足元が崩壊しそうな出来事。
 まず一つは、返された模擬テストが、五教科、揃(そろ)いも揃って悪い成績でかえってきたこと。一番自信があった数学でさえ平均点と同じ点数で、あとは全部それより下。合計点は、彼の志望校にはとても到達していなかった。
 それでかなり凹んだが、あくまでこれは模擬のテスト。まだ本番までる。彼は「じゃあ、これからはもっと真面目に、心を入れ替えて勉強しよう」と思った。
 己の決心を強めるため、願書を提出するついでに、市役所にい鑽石能量水って戸籍もとってきた。  

Posted by 伊娃的誘惑 at 16:45Comments(0)

2015年11月20日

何人か犯人と

「う、ら、むわけっ……ない、でしょ……」
湧奈は勇気をだして伸羅を見た。が、伸羅の目はもう、完全に濁ってしまっていた。

 救急車が到着したのは、その三分ほどあとpretty renew 雅蘭のことだった。まだ、湧奈は嗚咽していて、伸羅の身体が運ばれると、静かに泣き出した。堪えていたものがあふれ出した。

 次の日の午後、伸羅の葬式が行われた。湧奈は会場に姿を現したものの、式が始まってしばらくすると、式場を出ていってしまった。修斗はその態度に腹を立てていたが、宏忠は
「今は、そっとしておいてあげよう」
と言っただけだった。

 突然起こった殺人事件、北郷伸羅の死は、BAKUの人々を悲しませ、また、恐怖させた。
6,推理
 事件から、一週間が経とうとしていた。湧奈は伸A霸數學教室羅が亡くなってから、一度も会社に出勤していない。
「……っ!」
 アタシがいつも通りに出社していれば……。
いや、それ以前に、ずっと二人で行動していれば、あの時、伸羅はアタシを待ってたはず……それなのに!

 一方、BAKU本社では、警察による捜査によって、思われる人間があがってきていたが、特定するまでには、まだ時間がかかりそうだった。
「……他に、何か気になった点はありませんか?本当にちょっとしたことでもいいんです」
宏忠は、同じ質問を何度もされていた。
「昨日もお話したように、もうそういうことはありません」
「……では、笠石さんを呼んでもらえませんか?」
「彼女は……」
 できれば、今呼び出したくない。
「笠石さんが、最初に北郷さんを発見したと聞きましたが……」
しかし、宏忠の様子に気づき、警官、古谷pretty renew 雅蘭悟(こたにさとる)は口を噤んだ。
「……」
部屋が重い空気に包まれた。
  

Posted by 伊娃的誘惑 at 11:05Comments(0)

2015年10月02日

話をするこ


 赤松修左衛門は時間をかけ、家臣の二男三男のなかから、適当な人物をえらび出した。勘定奉行だけあって、人を見る目はある。それをむこ養子にした。
 その青年は養子となるとともに、修吾と名が変った。やがて、赤松家の家督を相続すれば、その代々の名、修左衛門を襲名することになる。そして、勘定奉行の職をつげることも確実だった。
 家老とちがって、勘定奉行は世襲の地位ではない。しかし、修左衛門は気に入った養子のため、その対策をおこたらなかった。修吾を補佐役である勘定頭のひとりとして出仕できるように工作し、実現した。普通だと、家督をつがない限りお城への出勤はできないのだが、そこが
修左衛門の実力だった。
 これは、わが娘のためであり、赤松家のためであり、ひいては藩のためでもある。
 修吾はともにお城へ出仕し、公的な仕事の見習いをした。また帰宅すると、公用の席では口にできない裏面の|秘《ひ》|訣《けつ》も教えられた。城下の大商人が、ごきげんうかがいに屋敷へやってくると、修左衛門は彼を同席させ、紹介した。
「これがわたしのあととりです。いろいろと教育しているところだ。よろしくたのむ」
「こちらこそ、なにぶんよろしく。お奉行さまのように物わかりのいいかたになっていただけると、ありがたいのですが……」
 意味ありげに笑う商人に、修左衛門は言う。
「そう仕上げるよう修業させている。なかなかみどころのあるやつだよ。おまえたちも、なんとか手伝ってくれ」
「わかっておりますとも。そうときまったら、いかがでしょう。これから一杯……」
 商人に案内され、料理屋へ出かけて豪遊することにもなるのだった。商人は武士にとって別人種といっていいほどのちがいがあるが、その操縦術をしだいに身につけ、修吾もなかなかのやり手に成長していった。
 藩政の責任者である城代家老が、勘定奉行の部屋に来て、こんなともある。
「江戸の殿から、またも金がいるとの使いがあった」
「なんとかいたしましょう」
「いつもの報告だと、やりくりが大変だということだが、どうなのだ」
「必要な経費とあらば、それを調達するのが勘定奉行の仕事でございます」
 修左衛門は家老たちに、この仕事が容易ならざるものだと、それとなく毎回ふきこんでいるのだ。城代家老はうなずく。
「そうであろう。わたしなど、数字を聞くだけで頭がおかしくなってくる。これだけの藩だ。財政は複雑きわまるものであろう。それが、なんとか運営できているというのも、修左衛門がいるからこそだ」
「おそれ入ります」
「しかし、気になってならぬ点がある。貴殿もかなりの年齢になってきた。出仕できなくなったら、あとはどうなるのだ」
「そのことはご心配なく。修吾をみっちり仕込んでおります。やがては、いくらかお役に立つようになりましょう」
「それを聞いて安心した。武芸の達人は多いが、財政の達人はえがたいからな。しかし、いまのところ貴殿にかわりうる人物はいないのだ。からだに注意し、できるだけいまの仕事をつづけてくれ」  

Posted by 伊娃的誘惑 at 16:17Comments(0)

2015年09月30日

許された行動

 かつて、吉良家への討ち入りの時、大石たちが書いて門前に残した文章を、ちょっと変えただけのものだ。
 良吉はこの高札の下にすわり、絶食して死ぬつもりだった。しかし、たちまち門番役の一隊がやってきた。良吉はとっつかまった。人だかりがし、大さわぎとなる。
 良吉は町奉行所へ連行された。そこで奉行に抗議した。
「なぜ、こんなところでさばかれるのか」
「ご政道を公然と批判し、それを実行した浪人は、町奉行によってさばかれることになっている」
「不公平だ。それが法でござるか。浅野の浪人と同能量水じ条件である。あいつらは、大名家へおあずけとなり、ちやほやされ、その上での切腹だ。なぜ人によってあつかいを変える。法の乱れは、天下のほろびるもとだ」
「やっかいなやつだな。どうしてくれというのだ」
「老中、若年寄、大目付たちの会議の上での評決をお願いしたい。そうしないと、お奉行、貴殿の手落ちとなり、後世へ悪名が残りますぞ」
「妙な話になってきたな。申しぶんはわかった。あらためて相談してみる」
 町奉行は書類をもって上へうかがいをたてた。独断でやって、あとで問題にされるよりはいい。ことは公的なものとなったが、どの役も変な責任はとりたくないと、押しつけあう。しかし、いつまでもほっておけない。
 やむをえず押しつけられた役の者が、結着をつけた。自分の屋敷へ良吉を連れてきて、処分を申し渡した。
「黒潮良吉とやら、そのほうの志、武士としてみあげたものである。しかしながら、江戸の城門をさわがせし罪、軽からず。よって、大名家へおあずけとする」
「切腹ではないのですか」
「だれかを殺害していれば切腹だが、それをしていない。よって、罪一等補習社邊間好減じたのだ。ありがたく思え」
「どこの大名家へですか」
「知らんでもいいことだ。おあずけとなれば、どこでも同じことだ。これは上意でござるぞ」
「ははあ……」
 良吉は平伏した。そこに上意の文書があったのかどうか、見そこなってしまった。たちまち、かごへ押しこめられ、外を見ることもできず、どこかへ運ばれた。
 だれかの大きな屋敷につく。一室にほうりこまれた。そこは座敷|牢《ろう》。格子がはまっていて、出ようにも出られぬ。なかでの食事と排便だけが。風呂へも入れない。
「なんというあつかいだ。本でも読ませろ。なにかやらせろ。浅野の浪人たちと、だいぶ待遇がちがうようだぞ」
 と食事を運ぶ係に文句を言った。
「浅野の浪人たちは、切腹でしたから、ああしたのです。あなたはちがう。これが正式なのです」
「まるで気ちがいあつかいだ」
「そんなとこです。なんとでもおっしゃい。しゃべるのは自由です」
 ひどいものだった。これが正式の、大名家へのおあずけか。吉良義周能量水や浅野大学の苦痛がよくわかった。なにしろ、なにもできないのだ。できるものなら眠りつづけていたかったが、そうもいかない。  

Posted by 伊娃的誘惑 at 17:35Comments(0)

2015年09月22日

犬ですが

 謙三は、うなずいて、気の毒そうな顔をしていたが、なに思ったのか滋はテーブルの上からのりだして、
「それはどういうわけですか。じぶんと同じ人間がいるなんて、気味のわるい話ですね」
 そうたずねると、剣太郎はいかにもうれしそうに、
「ああ、きみ、よくたずねてくれましたね。ぼくがこの話をすると、ほかの人はみんな、いやな顔をするんですよ。おじさんだって、津川先生だって、じいやだって。……きみだけです。そう熱心にたずねてくれるのは。
 ……でも、これはうそじゃないのです。この家のなかに、もうひとり、ぼくと鑽石水同じ人間がいるんです。もうひとりのぼくがいるんです」
「いつ、その人を見たんですか」
「いつ……? そうですね」
 剣太郎は指おりかぞえていたが、
「そうそう、あれは二十三日の晚でした。夜中にふと目をさますと、だれかが上から、ぼくの顔をのぞいているのです。それがぼくでした。ぼくはその晚、窓のカーテンをしめわすれてねていたので、月の光ではっきり顔が見えたのです」
 滋は思わずはっと息をのみこんだ。
 二十三日といえば、滋が軽井沢へきた日ではないか。しかも、その汽車のなかで滋は剣太郎に似た少年が、鬼丸博士といっしょに乗っているのを見たのである。そのことと剣太郎の話とのあいだに、なにか関係があるのではないだろうか。
「それは気味のわるい話ですね。そして、そののちも、その人を見たことがあるのですか」
「ありますとも、二度も三度も……一度は、ぼくがふろへはいっ能量水ていると、窓の外からのぞきました。そのつぎは、居間で本をよんでいると、ドアの外を通ったのです。三度めは、動物室で、ぼくがカピの|剥《はく》|製《せい》を見ていると……」
 滋は、びっくりして相手の顔を見なおした。
「動物室ってなんですか。カピの剥製ってなんのことですか」
 そうたずねると、剣太郎は顔をあかくして、
「そうそう、きみはなにも知らないのでしたね。動物室というのは動物の標本をならべてあるところです。あとで見せてあげましょう。それはすばらしいんですよ。カピというのは、ぼくがかわいがっていた、今月の十五日に、きゅうに血をはいて死んだのです。それで、おじさんにお願いして、東京へもっていって、剥製にしてもらったんです。かわいそうなカピ!」
 滋は謙三と顔を見あわせた。なんだかへんな話である。やっぱりこのひとは病気なのではないだろうか……。
 剣太郎もそういう顔色に気がついたのか、
「ああ、きみも、うたがっているんですね。きっとぼくを気ちがいだと思ってるんでしょう」
「いえ、そ、そんなことはありません。でも、だれかいると思ったら、どうしてさがしてみないのですか。さがしてみたら、いるかいないか、はっきりわかるでしょう」
「もちろん、さがしてみましたよ。おじさんや津川先生、じいやにも手つだってもらって……でも、どうしても見つからないんです」
「それじゃ、やっぱり……」
「病気のせいだというんですか。いいえ、そうじゃな救世軍卜維廉中學いんです。そうじゃないんです」
 剣太郎は、やっきとなって、  

Posted by 伊娃的誘惑 at 13:23Comments(0)