Information
オタクの電脳
QRコード
QRCODE
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 0人
プロフィール
伊娃的誘惑

2016年02月24日

趣味の反映


二日酔いとむくみでしかめっつらした健二に見送られて渋谷を後にした寺山は一旦自宅に戻り美智代に返す紙袋をリュックに入れ会社に向かった。途中物流鑽石能量水倉庫のある駅で山岸と合流した。山岸は最近始まったパソコン組立のキッティング作業や新システムに関して不満と不信を漏らした。「なんぼ合理化のため言うてもあんな年寄りにパソコンいじらすのは可哀想や。学生みたいのにあれせえこれせえ言われてうろうろしてるわ。いっそのこと辞めてくれ言われた方がましやで」山岸の言っているのは最近までトラックヤードを仕切っていて定年で嘱託になった元現場課長の斉藤のことだ。寺山ももちろんよく知っている。一月前まで一緒に働いていたし、ガムテープの張り方から伝票の接続、フォークの取り回しまで叩き込んでくれたのも彼だった。「仕事があるだけましだよ。おまえが思うほど彼は気にしちゃいない。辞めたきゃ辞めるさ」と寺山は言った
 新システムが稼働したのは半年ほど前だった。既にPOSは導入されていたが、自動倉庫を一新し、仕訳をほとんど自動化した。作業を自動化するとミスは致命的な効率ダウンに直結する。手作業でなんとかしようとしても既にそのシステムがない。斉藤はそのミスを連発し伝鑽石能量水票を手に走り回っていた。移動は突然だった。笑顔を凍らせて「はい、はい」とうなづく彼に、本社の若い総務課長はキッティングルームに人が足りないからそっちに回ってくれないかと告げた。三十年以上現場にいる人間にハードディスクのコピーをやってくれと言うのだから辞めてくれと言っているのと同じである。しかし人には出来ない事情がある。斉藤はキッティングルームに移った。
 三月に入ると東京の冬も春の兆しを見せ始めるがこの町にはそれがないされた庭など隅から隅までコンクリートに覆われたこの町にあるはずもなく緑化のために植えられた道路脇の緑樹もいたずらに白い町の広がりを映しているだけである。所々に巨大な橋がかかり海までも人の目から隠し車の中からざっと見るにとどまる。海猫が飛ぶから海があるのが判るくらいで、地上にいる限りどこもかしこも人工物だ。もっとも人が住み憩うための町ではないのであるから当たり前といえば当たり前である。好きこのんでここにとどまる人間は風に吹かれる人間か風に耐える人間か。きっと海猫の仲間で灰色の目を持つ──女の目も青みがかった灰色だった。振り仰いで寺山を見たときにも、キーを差し込んだドアの前で彼女が少し振り向いた時にも
それを見た。ワインレッドのクッションフロア鑽石能量水に鈍い光が広がり、振り返った彼女の目はその光をこの町に緩やかに吹き荒れる風に溶け込ますかのようだった。
 倉庫の2階に上がるエレベータの前で掲示板のチラシを見ながら寺山はその目を思い出した。彼女は「もっと酷くして」と言い、「ごめんなさい」と言い
「許して」と言う。「甘えるな」と髪を掴んだとき青みがかった灰色のその目の奥に懇願のような喜びが見えた。

Posted by 伊娃的誘惑 at 10:41│Comments(0)
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。