Information
オタクの電脳
QRコード
QRCODE
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 0人
プロフィール
伊娃的誘惑

2016年02月24日

画面を目で追

エレベータを下り、タイムカードを押し、山岸は検品所へ、寺山は事務所へと別れた。整然と積み上げられた段ボールの谷間をしばらく行くと透明なガラス室內設計 をはめ込んだ間仕切りの向こうに美智代がいるのが見えた。寺山が手をあげると美智代も気付いた。寺山はリュックから紙袋を取り出しドアを開けた。
緑色の絶縁塗料の床はここで終わる。事務所の中は薄いグレーのタイルカーペットが敷き詰められOA机とパソコンが並ぶ。美智代がコーヒーサーバーにサイホンを戻し、カップを手に戻って来た。寺山はそれと交換のように紙袋を美智代に渡し、「ありがとう、おいしかった」と礼を言った。寺山はここでコーヒーを飲みながらしばらく時間をつぶす。荷のリストが打ち出されるのを待つためである。荷は日本全国から各地のチェックポイントを通ってここにやってくる。情報はリアルタイムに更新されここにたどり着いたときには仕訳の半分は終わっているようなものだ。ただその巨大な量と質、形の違い、到着予定時間の狂いから現場の調整が必要になってくる。一つ狂えば連鎖的に狂って来る。リストを見ながらコーヒーを飲む時間も無駄な時間ではない。寺山はテーブルに寄りかかりコーヒーを片手にリストを見ていた。その斜め前で美智代がパソコンのい鑽石能量水ながら骨董市がどうのこうの言うのを寺山は聞くともなしに聞き、美智代の肩を盗み見た。ちょっと疲れて見えるのは椅子の背で寄った制服の皺のせいだ。おかずを作ってくれなくていいと言うつもりだったのだがなかなか言えない。気楽でいい仲だったのでなおさらである。
「うん、だから寺山さんがいいと思うんだ」と後ろから声が聞こえた。
「え?」と寺山は振り返った。
「骨董市ですよ骨董市。寺山さん、以前イベント屋さんののお仕事なさっていたって」
 三月前に課長になった宮田がサスペンダーで吊ったズボンに指先を突っ込みながらそう言った。
「でも課長、寺山さんにだってご都合があるのよ。そんなに急に言われたって。それにイベント屋さんじゃなくてマーケティングの会社でしょ」
「何、骨董市って?」
「だから今言ったでしょ。東センターで今度の室內設計日曜にあるって。協賛の企業が人を出さなくちゃいけないんだけれど欠員が出ちゃって」と美智代は課長をちらっと見、パソコンのキイーを2,3回強く叩いた。
「ん?」と寺山は首をつきだした。  

Posted by 伊娃的誘惑 at 10:42Comments(0)

2016年02月24日

趣味の反映


二日酔いとむくみでしかめっつらした健二に見送られて渋谷を後にした寺山は一旦自宅に戻り美智代に返す紙袋をリュックに入れ会社に向かった。途中物流鑽石能量水倉庫のある駅で山岸と合流した。山岸は最近始まったパソコン組立のキッティング作業や新システムに関して不満と不信を漏らした。「なんぼ合理化のため言うてもあんな年寄りにパソコンいじらすのは可哀想や。学生みたいのにあれせえこれせえ言われてうろうろしてるわ。いっそのこと辞めてくれ言われた方がましやで」山岸の言っているのは最近までトラックヤードを仕切っていて定年で嘱託になった元現場課長の斉藤のことだ。寺山ももちろんよく知っている。一月前まで一緒に働いていたし、ガムテープの張り方から伝票の接続、フォークの取り回しまで叩き込んでくれたのも彼だった。「仕事があるだけましだよ。おまえが思うほど彼は気にしちゃいない。辞めたきゃ辞めるさ」と寺山は言った
 新システムが稼働したのは半年ほど前だった。既にPOSは導入されていたが、自動倉庫を一新し、仕訳をほとんど自動化した。作業を自動化するとミスは致命的な効率ダウンに直結する。手作業でなんとかしようとしても既にそのシステムがない。斉藤はそのミスを連発し伝鑽石能量水票を手に走り回っていた。移動は突然だった。笑顔を凍らせて「はい、はい」とうなづく彼に、本社の若い総務課長はキッティングルームに人が足りないからそっちに回ってくれないかと告げた。三十年以上現場にいる人間にハードディスクのコピーをやってくれと言うのだから辞めてくれと言っているのと同じである。しかし人には出来ない事情がある。斉藤はキッティングルームに移った。
 三月に入ると東京の冬も春の兆しを見せ始めるがこの町にはそれがないされた庭など隅から隅までコンクリートに覆われたこの町にあるはずもなく緑化のために植えられた道路脇の緑樹もいたずらに白い町の広がりを映しているだけである。所々に巨大な橋がかかり海までも人の目から隠し車の中からざっと見るにとどまる。海猫が飛ぶから海があるのが判るくらいで、地上にいる限りどこもかしこも人工物だ。もっとも人が住み憩うための町ではないのであるから当たり前といえば当たり前である。好きこのんでここにとどまる人間は風に吹かれる人間か風に耐える人間か。きっと海猫の仲間で灰色の目を持つ──女の目も青みがかった灰色だった。振り仰いで寺山を見たときにも、キーを差し込んだドアの前で彼女が少し振り向いた時にも
それを見た。ワインレッドのクッションフロア鑽石能量水に鈍い光が広がり、振り返った彼女の目はその光をこの町に緩やかに吹き荒れる風に溶け込ますかのようだった。
 倉庫の2階に上がるエレベータの前で掲示板のチラシを見ながら寺山はその目を思い出した。彼女は「もっと酷くして」と言い、「ごめんなさい」と言い
「許して」と言う。「甘えるな」と髪を掴んだとき青みがかった灰色のその目の奥に懇願のような喜びが見えた。  

Posted by 伊娃的誘惑 at 10:41Comments(0)